2009/6/24応募
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何彼
両親と兄は電気屋へ行くそうだ。私は居間の火燵から出て行く車を見送った。火燵で横になって本を眺めていると、当然睡魔が襲ってくる。座布団を折って枕にし、私は伏せて眠ってしまった。
二階に誰か居る。ゆるやかな意識の覚醒とともにそう直覚した。私は母がベランダの洗濯物を取り込んでいる姿をぼんやりと想像した。瞼を開け、目の前の、ガラス越しの庭の景色を見るとなしに見ていると、違和感があった。駐車スペースに車がない。つまりまだ誰も帰ってきていないはず。そして当然母親も……。そう思い至ると急にぞくりとした。
全てを誤魔化すため無理にでも眠ろうとしたが、意識のフォーカスは二階のなにかへと勝手に定まっていく。部屋から廊下へ動いた。物音がする訳でもないのに、その動きがなぜかよく分かった。
二階から階段を下りて一階のキッチンへ。しばらくそこをうろうろすると、居間の方へと移動してくる。
そしてこちらに、火燵で横になっている私に、いま気付いた。
ああ、くる、くる、くる。歩速をゆるめて近づいてくる。
きた。
火燵の横辺、私の背中を見下ろす位置に立ち止まる。
数秒。
そっと腰を下ろす。
私の左足に接した側の火燵布団が小さく、めくれるように動いた。
何かが、火燵にチョコンと座って、正座して、こちらをじいっと見ている。背筋をぴんと伸ばして、大きな目で、真っ直ぐに。
馬鹿らしいと思いながらも、振り返ることができなかった。
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