2009年7月8日水曜日

「第7回ビーケーワン怪談大賞」応募作品 その2

2009/7/8応募
文字数(スペースを含める):767字

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   ○住の踏切

 ○住の踏切には幽霊が出る。ここらじゃそれなりに有名な話だ。近くに小さな墓場。踏切横の植物に覆われた妙に古くさい家。確かに雰囲気はある。そんときなんでそこを使ったのかは覚えてない。夜だ。俺はパンクした自転車をひきながら歩いてた。ろくに街灯もないあそこは踏切の誘蛾灯みたいなオレンジの明かりが暗闇にぼんやり浮かび上がる。夢の景色みたいなそれにとぼとぼ歩いてく。と5メートルくらい手前で踏切のライトの中に妙なものを見つけた。背広だ。人の体だ。顔ははうなだれて分からない。こちら向きの背広が道路の中央の遮断機のポールが通るあたりで吊られたように浮いている。ぷうらりぷうらりわずかに揺れてその妙に印象的な画は今でもよっく覚えてる。見た瞬間自分でも面白いくらいピシっと止まったよ。硬直した。混乱した。動けないんだ。逃げたいのに、叫びたいのに、うずくまりたいのに自分の体が遠い。ただ涙目で犬みたいにうなるだけだった。音がすぐに聞こえた。ギュッギュッギュ。軋むような音。何か、と考えるまえに前方の体がガクンと大きく動いた。手足が不自然に跳ねた。そして音がするたびにどうやら体が少しずつ上がっていくんだ。ギュッとするたびに足先分くらいが。それがある程度まであがるとガクンと落ちる。で手足が跳ねる。また上がっていく。その繰り返しだ。その何度目かで空に吸い込まれるようにスポンと消えた。音もだ。その場にへたりこんだ。自転車も当然倒れただろう。今度はそこから動けなかった。自分の後ろにさっきの背広が立っている妄想が頭にこびりついて離れなかったんだ。そいつはどんどん膨らんで次の瞬間にも肩に手を置かれる気がした。怖くて死にそうだった。そして、
 おい
 それが俺が中学んとき、○住の踏切んとこでお前に声をかけられてしょんべん漏らして泣いた理由だ。笑いたきゃ笑え。

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成果:とくになし

©HANABUSA Ikkei