2009年6月24日水曜日

「第7回ビーケーワン怪談大賞」応募作品 その1

2009/6/24応募
文字数(スペースを含める):601字

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   何彼

 両親と兄は電気屋へ行くそうだ。私は居間の火燵から出て行く車を見送った。火燵で横になって本を眺めていると、当然睡魔が襲ってくる。座布団を折って枕にし、私は伏せて眠ってしまった。

 二階に誰か居る。ゆるやかな意識の覚醒とともにそう直覚した。私は母がベランダの洗濯物を取り込んでいる姿をぼんやりと想像した。瞼を開け、目の前の、ガラス越しの庭の景色を見るとなしに見ていると、違和感があった。駐車スペースに車がない。つまりまだ誰も帰ってきていないはず。そして当然母親も……。そう思い至ると急にぞくりとした。

 全てを誤魔化すため無理にでも眠ろうとしたが、意識のフォーカスは二階のなにかへと勝手に定まっていく。部屋から廊下へ動いた。物音がする訳でもないのに、その動きがなぜかよく分かった。
 二階から階段を下りて一階のキッチンへ。しばらくそこをうろうろすると、居間の方へと移動してくる。
 そしてこちらに、火燵で横になっている私に、いま気付いた。
 ああ、くる、くる、くる。歩速をゆるめて近づいてくる。
 きた。
 火燵の横辺、私の背中を見下ろす位置に立ち止まる。
 数秒。
 そっと腰を下ろす。
 私の左足に接した側の火燵布団が小さく、めくれるように動いた。
 何かが、火燵にチョコンと座って、正座して、こちらをじいっと見ている。背筋をぴんと伸ばして、大きな目で、真っ直ぐに。

 馬鹿らしいと思いながらも、振り返ることができなかった。

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成果:とくになし

2009年6月5日金曜日

『てのひら怪談 己丑』発売




 『てのひら怪談 己丑』を近所の本屋で買ってきました。既に2冊目。1冊目は欲しがってた友人にbk1で郵送して、今回も人にあげるためです。積んでおいてある(といっても2冊だけでしたが)のを見ると、たった一話を書いただけですが、嬉しいもんですね。

『てのひら怪談 百怪繚乱篇』と『てのひら怪談 己丑』のセールスランク@Amazon

参考:ここ

『てのひら怪談 百怪繚乱篇』

『てのひら怪談 百怪繚乱篇』

『てのひら怪談 己丑』


『てのひら怪談 己丑』

2009年5月14日木曜日

「WEB幽 読者投稿怪談(テーマ:「実話系2」)」応募作品

2009/5/12応募
文字数(スペースを含める):1,150字

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   ぼたり

 カブト虫、いるだろう。あれ僕苦手でね。嫌いなわけじゃないんだけどちょっとトラウマがあるんだ。
 まあ大体の子供に漏れず僕もカブトとかクワガタが好きだった。ミヤマクワガタ捕まえたなんて言ったら友達の内じゃちょっとしたヒーローだった。実際それがミヤマクワガタだったかは怪しいけれど。隣町のA君は○センチのオオクワガタをどこそこで見つけた、ってのもあったな。さすがにあれは子供同士の可愛らしい嘘の一つだったんだろうね。田舎だったから近所に雑木林もいくつかあって、そこででかい幼虫や成虫をとってきては家のプラスチックのケースで飼っていた。
 いつだったか、僕が小学生の夏、学校から帰ってくると、弟が庭先においたプラスチックのケースをしゃがみ込んで見ているのを見つけた。このことはちょっと僕を驚かせた。弟は大の虫嫌いだからね。チョウチョはかろうじて大丈夫だったが、昆虫系はまずだめ、芋虫なんかはそれがいる場所には決して近づこうとしなかったからだ。当然、僕のケースにも近づこうとはしなかった。虫が多く出始めると庭の植物につく虫を嫌って弟は玄関口しか使わなくなるのが常で、そもそも夏の庭にいること事態が不自然だった。
 僕は、まさしく珍しい虫を見つけたかのように、数件隣の住宅の陰からその様子を息を殺して見守っていた。不安さすら感じていた。その不安さはすぐに正しかったのだと分かったが。
 弟が庭先に置いてあるケースの上部をあけて、左手でまるまる太って丸まったカブトの幼虫を土の中から一つ取り出して、右のてのひらにのせた。その幼虫をしばらく眺めたかと思うと、突然、その手をぎゅっと握ったのだ!
 それは、カブトの幼虫の白い内容物が握った手の指の間から垂れる様は、昆虫が好きな僕にさえ、いや好きだったからかもしれないが、強烈な生理的嫌悪を感じさせた。顔が引きつった。弟は手を握ったまますぐに家に入っていった。僕は家に帰るのが嫌でランドセルを持ったまま遊びにいった。帰って親に怒られた。
 そのことは、触れてはいけないことのように思えて、いや訊く勇気がなくて、ずっと黙っていた。居心地が悪かった。ケースの虫は友達に全部くれてやった。そして雑多な記憶に埋もれていった。
 このことを、弟が子供を連れて正月に帰省したときに尋ねたことがあった。ちょうど甥がその頃の弟とそっくりだったから思い出したんだろう。弟はそんなことはしらない、という。芋虫を素手で触るくらいなら舌かみ切って死ぬよと笑っていた。それ以上は想像もしたくないと。その反応はいかにも弟らしかった。
 やはりあれは僕の見間違い、もしくは記憶と取り違えた夢の類いなのだろうと思うけれど、その度に思い出す、握った手から白い液がぼたりと垂れる様はやけに鮮明で、僕は顔が少し引きつる。

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怪談じゃないなあと送ってから気づいた。
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成果:とくになし読者投稿怪談に掲載されました(2009/5/18)
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2009年5月1日金曜日

「第6回ビーケーワン怪談大賞」応募作品 その3

2008/6/18応募
文字数(スペースを含める):643字

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   独りで

 修学旅行で泊まった旅館に白い着物を着た男の子がいた。僕と同じくらいに見えた。栗色の短い髪に、裸足で、旅館のなかを落ち着きなく歩き回っていた。廊下でよくすれ違った。首をきょろきょろ動かし、何か探してるようだった。合同の夕食のときもみんなが座っている中を歩き回って、一人一人の顔を覗くようにしていた。

 二日目の夜、男の子はロビーの隅で体育座りをしていた。俯いて、元気がなさそうだった。
「永山君が独りでいるよ」と僕は男の子に向かって小さく声をかけた。永山君は昼の間に体調を崩したらしく、外から帰ってきてから医務室で休んでいた。
 僕の声に反応して男の子は、ぱっと顔を上げた。目を大きく開いて、驚いているように見えた。それからゆっくりと立ち上がり廊下をかけていった。医務室の方向だった。

 修学旅行最終日の朝、旅館の人たちが玄関先まで見送ってくれた。その一番右端に、男の子と永山君が立っていた。永山君は男の子と同じ白い着物を着ていた。右腕で顔をこすり泣いているように見えた。
 男の子は永山君のことを心配しているようで、隣にたって様子を窺いながら背中をさすっていた。ときどき、耳元で何か囁いていた。
 集団の中から僕のことを見つけると、男の子は笑って、何度も大きく手を振った。
 ありがとう、と口が動いていたように見えた。僕もそちらに手を振って応えた。

「全員ちゃんといるなー。じゃあ行くぞー」
 点呼を終えた先生が叫んだ。クラスごとに男女二列になって歩き出す。
 永山君はクラス委員なので先頭を歩いている。

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成果:とくになし

「第6回ビーケーワン怪談大賞」応募作品 その2

2008/6/18応募
文字数(スペースを含める):711字

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   朱墨

 祖父は骨董に凝っていて、特に気に入っていたのが一本の古い朱墨だった。
 僕を胡座の上に載せては、奇麗だろう、と良く自慢した。しわくちゃの手で墨の全面を見せるようにくるくると回して見せるのだけど、あまり奇麗には見えなかった。別に装飾があるわけでもなく、細かなヒビは何本も入り、肝心の朱色もだいぶ色褪せて言われなければ気づかないように思えた。
 だけど僕は祖父が喜ぶように、きれい、と答えた。すると、そうかそうかと僕の頭を撫でて喜んだ。

 そんな祖父の様子がある時期を境に変わる。元気だった祖父が急に惚けたようになってしまった。祖父の言葉を借りれば「朱墨の色が退いた」ためのようだった。
 周りにはその言葉の意味が分からなかった。誰の目にも、別に色が退いた様には見えなかったからだ。そのことを祖父に言っても、いや色が退いてしまった、と言って聞かなかった。そして、俺はもう駄目だ、朱墨に嫌われた、逃げられてしまった、と妙なことを口走るようになった
 ほら、もう色が退いてしまったろう、と床に伏せた祖父は僕に朱墨を見せる。骨と皮ばかりだがやけに力の強かった祖父の面影はもはやない。やはりくるくると墨を回してみせるのだけど、以前ほどの軽快さはなく、止まりかけたオルゴールのようだ。
 それは以前と全く同じ様に見えた。僕が返事に困っていると、お前は優しい子だから言いたくないのだろう、やはり色が退いてしまったんだ、と祖父は寂しそうに微笑み、僕の頭を撫でた。
 それからしばらくして祖父は亡くなった。臨終の際に、これはお前にやる、と言われた。小さな桐の箱だった。手に取り開けてみると、夕陽を閉じ込めたような鮮やかな朱墨があった。奇麗だな、と思った。

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成果:とくになし

「第6回ビーケーワン怪談大賞」応募作品 その1

2008/6/18応募
文字数(スペースを含める):726字

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   メトロノーム

 Mさんが高校生の頃の話だ。
 その日は、部活で遅くなったのだが、教室に忘れ物をしたことに気がついた。数学の問題集だ。明日は忌々しい夏野の授業がある。問題をやっていないとねちねち嫌みを言うのだ。もう校舎を出ようかというところだったが、仕方なく教室に取りに戻ることにした。
 二階には職員室があるから明るいが、三階、そして教室のある四階は真っ暗なので、パチパチと蛍光灯のスイッチを押しながら進む。教室に着くと明かりをつけ、まっすぐ自分の席までいく。問題集はすぐに見つかった。手早く鞄にしまうと明かりを消して廊下に出た。 喉が乾いたので水道で水を飲んでいると、廊下の奥の方で教室のドアが開く音がした。蛇口から顔を上げ、そちらを見る。
 遠くなのでよく見えないが、誰かこちらを見ているようだ。黒っぽい上半身が教室から斜めに生えるように出ていて、こちらを向いている。すぐに顔を引っ込め、ドアが閉まった。そしてドアが開き同じ事を繰り返した。
 最初は部活で残っていた友人がからかっているのかと思った。規則的な横の動きがメトロノームを連想しておかしかったからだ。

 しかし、妙なことに気づく。
 出てくる教室が近づいているのだ。ドアは間をおかず開閉しているので移動しているようには思えない。Mさんはぞわぞわとしたものを背中に感じた。
 がらがら、がらがら。徐々に近寄るドアの音。Mさんはすっかり固まってしまって動けない。がらがら。黒っぽい上半身は学ランのように見えた。
 がらがら。とうとう隣の教室まできた。見覚えのない生白いイガグリ頭がこちらをじっと見ていた。
 わあああ、とMさんは悲鳴を上げながら無我夢中で逃げだした。我に返ると肩で息をしながら職員室でへたり込んでいたという。

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成果:とくになし

©HANABUSA Ikkei