2008/6/18応募
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独りで
修学旅行で泊まった旅館に白い着物を着た男の子がいた。僕と同じくらいに見えた。栗色の短い髪に、裸足で、旅館のなかを落ち着きなく歩き回っていた。廊下でよくすれ違った。首をきょろきょろ動かし、何か探してるようだった。合同の夕食のときもみんなが座っている中を歩き回って、一人一人の顔を覗くようにしていた。
二日目の夜、男の子はロビーの隅で体育座りをしていた。俯いて、元気がなさそうだった。
「永山君が独りでいるよ」と僕は男の子に向かって小さく声をかけた。永山君は昼の間に体調を崩したらしく、外から帰ってきてから医務室で休んでいた。
僕の声に反応して男の子は、ぱっと顔を上げた。目を大きく開いて、驚いているように見えた。それからゆっくりと立ち上がり廊下をかけていった。医務室の方向だった。
修学旅行最終日の朝、旅館の人たちが玄関先まで見送ってくれた。その一番右端に、男の子と永山君が立っていた。永山君は男の子と同じ白い着物を着ていた。右腕で顔をこすり泣いているように見えた。
男の子は永山君のことを心配しているようで、隣にたって様子を窺いながら背中をさすっていた。ときどき、耳元で何か囁いていた。
集団の中から僕のことを見つけると、男の子は笑って、何度も大きく手を振った。
ありがとう、と口が動いていたように見えた。僕もそちらに手を振って応えた。
「全員ちゃんといるなー。じゃあ行くぞー」
点呼を終えた先生が叫んだ。クラスごとに男女二列になって歩き出す。
永山君はクラス委員なので先頭を歩いている。
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