2008/6/18応募
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メトロノーム
Mさんが高校生の頃の話だ。
その日は、部活で遅くなったのだが、教室に忘れ物をしたことに気がついた。数学の問題集だ。明日は忌々しい夏野の授業がある。問題をやっていないとねちねち嫌みを言うのだ。もう校舎を出ようかというところだったが、仕方なく教室に取りに戻ることにした。
二階には職員室があるから明るいが、三階、そして教室のある四階は真っ暗なので、パチパチと蛍光灯のスイッチを押しながら進む。教室に着くと明かりをつけ、まっすぐ自分の席までいく。問題集はすぐに見つかった。手早く鞄にしまうと明かりを消して廊下に出た。 喉が乾いたので水道で水を飲んでいると、廊下の奥の方で教室のドアが開く音がした。蛇口から顔を上げ、そちらを見る。
遠くなのでよく見えないが、誰かこちらを見ているようだ。黒っぽい上半身が教室から斜めに生えるように出ていて、こちらを向いている。すぐに顔を引っ込め、ドアが閉まった。そしてドアが開き同じ事を繰り返した。
最初は部活で残っていた友人がからかっているのかと思った。規則的な横の動きがメトロノームを連想しておかしかったからだ。
しかし、妙なことに気づく。
出てくる教室が近づいているのだ。ドアは間をおかず開閉しているので移動しているようには思えない。Mさんはぞわぞわとしたものを背中に感じた。
がらがら、がらがら。徐々に近寄るドアの音。Mさんはすっかり固まってしまって動けない。がらがら。黒っぽい上半身は学ランのように見えた。
がらがら。とうとう隣の教室まできた。見覚えのない生白いイガグリ頭がこちらをじっと見ていた。
わあああ、とMさんは悲鳴を上げながら無我夢中で逃げだした。我に返ると肩で息をしながら職員室でへたり込んでいたという。
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