2009年5月1日金曜日

「第5回ビーケーワン怪談大賞」応募作品 その1

2007/6/11応募
文字数(スペースを含める):492字

******************************

   風呂の底

 知人の息子に聞いた話である。ただ、その話を人にすることを彼の母親、つまり僕の知人はとても嫌がった。だから内緒だよ、と知人の息子、広太は僕にそっと釘を刺した。

 広太は風呂掃除が好きである。いや正確に言うなら、チェーンを引っぱって栓を抜き、風呂の底から水が抜けて行くのを見るのが好きなのだ。特に水が少なくなってから、渦を作るようにして水が抜けて行くのを見ると、思わず「がんばれ、がんばれ」と応援したくなるのだそうだ。

 その日も広太は同じようにチェーンを引っぱり、水が抜けて行くのをじっと眺めていた。ごぽごぽごぽと音を立てて、最後の水も抜けて行った。
 ところが、穴の付近にゴミが残っていたのだと言う。せっかく穴の近くまでいったのに、と広太は何だか残念な気持ちになった。そしてゴミを取るために浴槽に腕を入れてゴミを取ろうとした。

 すると、穴から指がすーっと出てきた。その指が、指の腹を使ってゴミを綺麗に拭い取ると、またゆっくりと穴に戻って行った。その動きはクリームをすくい取るような優しい動きだったという。

「あなたも見えるの」興奮して報告する広太に対して、母親はただ、そう言ったそうである。

******************************


リンクはこちらから→「風呂の底」(ビーケーワン怪談大賞ブログ)
成果:とくになし

0 件のコメント:

コメントを投稿

©HANABUSA Ikkei