2009年5月1日金曜日

「第5回ビーケーワン怪談大賞」応募作品 その2

2007/6/11応募
文字数(スペースを含める):623字

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   眉間のしわ

 彼女は要領が良かった。それ故、与えられた仕事を、必要以上の早さと完成度で仕上げていた。そのために仕事は増え、その全てを同じようにこなしていたら、自分が望む以上の地位と眉間のしわを手に入れた。
 仕事をこなす度、部下の数も増えていった。部下ができないものは自分がやったし、部下の誰よりも働いた。かつての上司は部下になり、彼女のしわは深くなった。
 化粧のために鏡を覗き込むと、そこには眉間にしわを持った女がいた。彼女のしわは化粧のときにも残るようになった。そんな女を毎日見なければならないということが、彼女のしわをより深くした。彼女は鏡を見ることが、段々疎ましくなってきた。しかしそれでも、彼女は化粧のために鏡を見続けた。
 ある日、いつも通り化粧をするために覗き込んだ鏡の異変に気が付いた。鏡の中の自分の口の端が上がって、わずかに笑っているように見える。おかしい。彼女は両手を顔に持っていって自分の顔の起伏を確認した。触った感じでは、とても自分が笑っているようには思えない。
 鏡の中の自分は更に笑って、歯を見せている。そんな馬鹿な。彼女は化粧よりも丁寧な手つきで顔に触れる。しかしやはり、いつものままである。
 そして鏡の中の彼女は、人差し指を目の下にやり舌を出した。あっかんべーだ。
 これにはさすがに驚いて、彼女は声を上げて軽くのけ反ってしまった。鏡のなかの彼女は楽しそうに笑った。それを見た彼女も笑った。
 眉間のしわは、もうなかった。

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リンクはこちらから→「眉間のしわ」(ビーケーワン怪談大賞ブログ)
成果:とくになし

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